スペインの夏は暑い。南部はとくに暑い。セビリア、コルドバといったアンダルシア地方の都市では最高気温が40度を越える日も少なくない。そうした暑い南部を中心にスペインでは昼寝siesta(シエスタ)の習慣が残っていて、実際に人々が寝ているかどうかは別にしても、午後の2時から5時頃まではほとんどの店が閉り、午後の3時ともなれば街の通りは人影もまばらになる。
空から照りつける太陽、そしてその痛いような日射しをはね返す石造りの建物や石畳の路地は、街を歩く者により一層の暑さを与える。そんな街角に扉を開けるバルがあれば、まさにオアシスではないか。こうしてバルに吸い込まれ、まず頼みたくなるのは、やはりビールcerveza(セルベッサ)である。
そんなときは、
“ビールを一杯下さい。Una cerveza, por favor.”(ウナ セルベッサ ポルファボール)
またはただ単に
“ビール!¡Cerveza!”
と言うだけでよい。すると注出機から琥珀色の冷えた生ビールを注いで出してくれる。あとは飲むだけ、渇いた喉に冷えたビールが実に美味しく、焦げた体は生き返ったかのようだ。
何処にでもある庶民的なバルで何も言わずにビールを頼むと、トゥーボtubo という300mlほどのビールが入る細長いグラスが出される。300mlは多過ぎるという人は、
“カーニャでビールを一杯!¡Una caña de cerveza!”
と頼めばよい。カーニャcañaというのはトゥーボの約半分、150〜200mlほどのビールをいい、脚付きのグラスが用いられるほか、普通のガラスコップのこともある。これらの容器はビール以外の他の飲み物にも使われるが、この2つで大小を区別するものは他にないので、初めから
“ ¡Tubo!”または“ ¡Caña!”
とだけいって頼んでも、それぞれの大きさのグラスでビールが出される。
バルには生ビールcerveza de grifoの他にも壜ビールcerveza embotelladaも置いており、なかにはアルコール度7%を越えるような強いものもあるので、生ビールがあるにもかかわらず、銘柄にこだわって壜ビールを飲む人も少なくない。その他、日本ではあまり見かけないノンアルコールビールcerveza sin alcoholを嗜む人も意外に多いので、お酒はダメという方は一度お試しを。ただし、ノンアルコールといっても1%程度のアルコールは含まれている。ビールから麦の味を抜いたような不思議な味の飲みものだ。
また、ビールを味付き炭酸水gaseosaで割ったセルベッサ クララcerveza clara(セルベッサが略されクララclaraと呼ばれる)も非常に軽くて喉を潤すにはちょうどよい。