スペイン語では赤、白、ロゼのワインをそれぞれ、ビーノ ティントvino tinto、ビーノ ブランコvino blanco、ビーノ ロサードvino rosadoというが、赤やロゼについては、ワインvinoという語が省略され、ティントtintoやロサードrosadoと呼ばれることが多い。
スペインの熟成ワインvino añejoは規定により、以下のような熟成期間に応じて、それぞれクリアンサcrianza、レセルバreserva、グランレセルバgran reservaという単語をラベルに表示することができる。
Crianza
白、ロゼ、赤.....樽熟成6ヶ月以上、壜熟成を含め合計24ヶ月以上
Reserva
白、ロゼ........樽熟成6ヶ月以上、壜熟成を含め合計24ヶ月以上
赤............樽熟成12ヶ月以上、壜熟成を含め合計36ヶ月以上
Gran Reserva
白、ロゼ........樽熟成6ヶ月以上、壜熟成を含め合計48ヶ月以上
赤............樽熟成24ヶ月以上、壜熟成を含め合計60ヶ月以上
都市部を中心に増えつつある小綺麗で比較的値段も高いバルでは、こうした熟成ワインが出されることも多く、
“赤を一杯。Un tinto, por favor.”
と頼めば適当に選んだボトルのものをグラスに注いで出してくれるし、そうしたバルならばどこにでも、リオハRiojaやリベラ デル ドゥエロRibera del Dueroといった有名な産地のワインが置いてあるので、産地を指定して飲み較べるのも魅力の一つである。一口にスペインワインといえども、D.O.認定だけで53地域、産地によって実に様々な味を楽しむことができる。と、これまで書いてきたのは、いわゆる教科書的なスペインワインの説明であるが、しかし、その辺の街角の庶民的バルでは常にこのようなD.O.物が飲まれているわけではない。庶民的バルで嗜まれているのは、その地方で産する「地ワイン」で、こうしたローカルワインを嗜好する人々は、リオハを筆頭とする熟成ワインのことを、
“Es el vino de laboratorio. あれは実験室でつくられるワインだ。”
“Tiene química.化学物質が混入されている。”
などといって批判し、自分達が常飲するワインがいかにナチュラルで優れているかを誇らしげに主張する。この口撃の対象は単にワインだけでなく、そのワインを飲む人々や製造者 ―つまりブルジョア― も含まれているように感じられるが、それは気のせいだろうか。
さて、ワインというものは、時間をかけて熟成すれば必ず味がよくなるわけではなく、なかには味が伸びないものもある。こうしたワインはさっさと飲んでしまった方が、何年もワインを寝かせておく余裕のない地方の零細酒蔵にとっては、長期間の保存に費用がかからずに好都合で、結果として酒飲み消費者の財布にも優しくなる。また、熟成期間の短いワインの特徴は、ブドウの品種や栽培地域を反映した、フルーティーで新鮮な果実の香りをそのままに残している点にあり、収穫年度以降3、4年も保存するとその香りが失われ、かえって味が悪くなってしまうそうだ。
さらに熟成期間が短いのが、若いワインvino joven ―フランスでいうヌーボー― である。グラナダでモストmostoというと、地中海沿岸部やアルプハーラスなどの周辺の村々で生産される地ワインvino de la costaの、収穫後2ヶ月から4ヶ月程度の若いワインのことを意味する。収穫後数ヶ月とはいうものの、日射しの強烈な沿岸部で育った糖度の高いブドウからつくられるため、アルコール度は他のワインと同様に12、13度を有する。これらのワインはそれほど生産量が多くないので、街のバルで飲むことができるのは、オヤジが購入した樽の分がなくなるまで、つまり12月初旬から3月、4月くらいまでだそうだ。
ところで、スペイン一般では、モストmostoはノンアルコールワインvino sin alcoholのことで、バルで頼むとブドウとリンゴのジュースzumo de uva y manzanaにレモンを加えたものが出されるのが一般的だ。味の方はワインというよりはリンゴジュースに近く、よく子供も飲んでいるので、お酒の弱い方にも全く問題ないが、前述のように、グラナダでは地ワインを意味するので、お間違えのないように。